需要と供給

 ギギナが飽きたように放り出した雑誌に目をやって、俺は思わず凍りついた。
 まったく完全に予想外のそれ。
 本屋でも需要はあっても隅に隠れるように置かれている、老若問わずに男が後ろめたそうに(時折は堂々と)購入していく種類の本。
 いわゆるエロ本をギギナが読んでいたと知った瞬間の驚きは、何事にも例えがたい。
 強いて言うならまだ童貞だと思ってた若造が百戦錬磨のツワモノだと知ってしまった時の反対のような?
 あのギギナが、わざわざ雑誌で妄想をかきたてて楽しんでいるなんて誰が考えるだろうか。女が知ったなら一斉に声をそろえて、それくらいなら自分の相手をしてくれと囀るに違いない。
「……どうしたのかなーギギナさん。いきなり不能になって、興奮の仕方を勉強しなおしてるとか?」
 驚愕のあまり戯言も不調な俺の言葉に、ギギナは怒り出すでなく黙って視線を投げつけてくる。
 じろじろと珍しいほど全身を眺めまわされて、嫌な予感に俺は僅かに身を引いた。
「なんだよ、いったい」
「いや。表紙の女が気に入ったのだが、中身はつまらんものだった」
「表紙って……」
 裏表紙のいかがわしい宣伝を見せながら伏せられている雑誌を手に取ってひっくり返す。
 そこに発見したのは、赤毛に青い瞳とかけた眼鏡が印象的な、怜悧な容貌の軍服を着た女だった。
 いわゆるコスプレ用の、丈が短すぎる黒い制服の女は、冷たい微笑を浮かべて俺をねめつけている。
 男を嘲弄するその表情は、辱めて屈服させたいと願う男の征服心を上手に煽っていた。
「へえ……なかなか」
「――貴様に似て、胸がない」
 口笛を吹きたくなった俺に、ギギナの端的すぎる感想が耳に届く。
 そのあまりの言い草に、俺は再び硬直した。

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53:Hリイさんに萌えを頂いて一気書き。
絵チャで軍服を描いておられたのが原因ですが、ご本人はお心当たりがなかったようです(笑)
(08/12/01)

追記。ここは二人の関係は(まだ)何も無い方向で! 狙われてるガユっち(笑)

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