安全地帯


 近頃、どうも間合いが危険だ。
 奴と俺との間には、ある程度以上の距離が必ずとってあるはず。だったのに。
 いつの間にか、暗黙の了解であったはずの位置関係にズレが生じている。
 つまり、具体的にいうならば。
 最近、何故だかギギナが近過ぎる。ふとした瞬間に、指先が触れ合うほどの有りえない距離感。隣にいても背中合わせに立っていても、接触した回数など覚えていられる程度だったのに。ここしばらくの間だけで、記憶限界を突破してしまっている。
 俺は変化なんて求めていないのに。
 奴は明らかに、もっと傍に寄ってこようとしているのだ……何故かは不明だが。
「それ以上近付いたら、警察呼ぶぞ」
「呼んでどうする」
 素朴な疑問で返されて、思わず俺は沈黙した。
 わぁごもっとも。警察どころか軍隊を呼んだって、ギギナに対抗できる奴なんてそうはいないよね。それこそ長命竜か翼将でも呼んで来なきゃ……って、どうやって呼ぶんだそんなの。
 問題をすり替えても仕方ない。
 隣に立つのはいい。誰より近い場所に立っているのは構わない。むしろ望むところだ。
 けれど、近過ぎてはいけない。一度でも触れ合うぬくもりを覚えてしまえば、温度変化がわかってしまう。離れれば寒さに凍えるし、知られたくないことも知りたくないことまでもより深く理解してしまう。
 こんな間合いは危険だ。
 ある程度以上の距離をとっておかねばならない。距離があれば、近付かなければ、これ以上の関係にならなければ、これ以下の関係になることもない。
 だから俺は戯言で茶化しながら、近寄ってくるギギナから逃げ続ける。
 触れ合う温度に惹かれながら、自分からは近付かない。

***********************************************************************
12:こういうのが基本だよなあと。、ある意味、無意識確信犯でズルいガユス。でも、言わないのはお互い様。(06/06/16)070514改稿

TOP ▲
NEXT >>

This page is Japanese version only.
当サイト内のテキスト及び画像は、許可しているものを除き無断転載を禁じます。
Powered by Movable Type 3.33-ja