ひみつのはなし

 相手に隠し事があるのは、お互い様である。


  『ひみつのはなし』


 ギギナは小さく舌打ちする。
 あの軟弱者は、自分からは決して今の関係を崩そうとしないだろう。
 堅固なようで曖昧で、けれど居心地良い場所を失わぬために、平気で己の心を隠すだろう。
 それは我慢強いのではなく、臆病なだけ。
 ギギナを信じていないだけではなく、まず己を信じていないから。
 今いる此処が最後の砦だと、進む先に良いものはないと決め付けている。
 いっそ突き放してやろうかと思案する時もあるが、いつも思い直す。
 迂闊にあの男を刺激したら、取り返しがつかぬほど遠くまで逃げ出しかねない。
 あの男のために妥協するなど冗談ではないが、保たれている均衡はあまりに微妙だ。
 相棒という名前をつけ安心した素振りで、依存関係を指摘すれば聞こえぬ振りをして。
 あんなに賢しい頭が気付かぬはずはないのに、都合の悪い話はすべて意識下へ隠している。

 ギギナは小さく舌打ちする。
 あの軟弱者にはどうしても甘くなってしまう。
 そんな自分を甘いと思いつつ、受け入れてしまう。
 これも、絶対に秘密だ。

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