買出しに来て、山となった荷物を両手に持ちながら横目でギギナを確認。
明日からの遠出の食料が含まれるせいで大荷物になるのは確定だったため、奴を引っ張り出してきたのだが。両手に俺の倍は袋をぶら下げている男の、まだ余裕がある様子に悔しくなる。
だが、こいつを使わない手はない。
タダで使える資源は、余さず使うのが賢い生き方というもの。
「ギギナ、じゃんけんしようぜ」
「……いきなり何を言い出す」
「いいからいいから、じゃーんーけーんーでー……」
ほい、と。
一瞬だけ右手に荷物を集め、妙に間抜けな言葉と共に握った拳を出す。
俺はグー。そして奴はパー。
…………ち。頭がピーな奴に相応しいものを出しやがったか。俺としたことが抜かったぜ。いっそ何も出さなければ不戦勝と言い切ったものを。勝負と名がつくものに負けるのを嫌がるドラッケンは、不必要な時に限って付き合いがいい。
「――何がしたかったのだ、貴様は」
「べーつーにー」
糞、本当は勝ったらもうひとつかふたつ、荷物を押し付けてやろうと思ってたのに。
重いから持ってくれ、なんて殺されても言いたくないから、視線を逸らして誤魔化しておく。だって仮にも男、仮にも攻性呪式士が、俺の荷物はお前の半分以下だけどまだ重たいからもっと手伝ってくれなんて言えるか。よろよろしていようとも、自分からお願いなんてできません。
「……まあいい。しかし私が勝ったのだから、ひとつ言うことを聞いてもらおうか」
「てめ、日頃から好きなだけ無茶を通してる癖に、こんな些細なお遊びで景品をねだろうとはさもしい奴め!」
「どうせ自分が勝ったら、何か言い出すつもりだったのだろうが」
だとしたら、私が景品を求めて何が悪い。
にやりと笑う男に返す言葉が無かったのは、図星を指されたからだ。決して絶対に男臭い笑みにうっかり見惚れた訳ではないぞ。
俺が思わず沈黙している間に、ギギナは手を伸ばしてきた。
はっと我に返るより早く、大きな手が俺の腕から荷物を奪っていく。
「な、おま……」
「敗者は黙っておとなしくしていろ」
勝者の権利として、この食料はもらっておく。
そう言いながら、見事に重い方から選んで袋を奪った男は、俺の三倍は荷物を持ちながら平然とペースを乱さず歩き続ける。
何だか無性に恥ずかしくなって、思わず奴から顔を背ける。多分俺の顔は、真っ赤に染まっていたに違いない。
最初から俺の考えはバレていたのか、それともふらふらよろめいているのが目障りだったか。いずれにせよ、か弱いイキモノとして庇われてしまったことになる。
こうやって甘やかされると、妙な優越感にかられてしまう。
奴が他人を構うのは珍しいとわかっているからだが、同時に非常に腹が立つ。馬鹿にするなと怒りがこみあげ、自己嫌悪に陥ってしまう。
男心は、複雑かつ繊細だった。
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39:男としての矜持は痛むところ。(06/11/11)070522改稿。