「貴様に生きる理由を与えてやろう。誰かに必要とされたいのだろう?」
冷徹な眼差しをした男の唇が弧をえがく。
その残酷な笑顔の美しさに、他の全てが色褪せて見えた。
『最高の終わり方』
生きる理由。
確かにソレは必要だ。
だがギギナに与えられた理由とは、奴の玩具になることだった。どうやら俺でも、弄ばれて使われるくらいには役に立つと言いたいらしい。
ああ腹が立つ。
どうすればこの男に傷をつけることが出来るだろうか。
身勝手に揺さぶられながら、とりとめなく思考する。肉体に与えられる刺激につられて、喉からは聞き苦しい鳴き声が零れ続けているが、心は冷たく凍り付いている。
望むままに生きて弱者を省みない男に、どうかほんの少しでも痛みを。俺が受けた何万分の一で構わないから。
仰け反りながら視界の隅をかすめたのは、奴が愛好する椅子だった。
覚えたくも無いのに記憶してしまった名前と、奴が甘く囁く呼び声が脳裏を過ぎる。
そうだ。お前が愛するものの上で、血と臓物を撒き散らしてやろう。
お前に捨てられたら、焦がれて泣くしか術のない女達と一緒にはするなよ。
俺が思いつく限り、最高に陰湿な最期を演出してやろうじゃないか。
「……機嫌がよさそうだな」
「ああ、とても愉快だよ」
あやすように撫でてくる男に、うっとり微笑みかける。その途端、手の動きが更に甘やかに丁寧になったのが滑稽だった。
明日の朝、何も変わらぬ様子で事務所に来たお前が愛娘を見た時どれほどの絶望を味わうかと考えただけで、この上ない愉悦を味わえる。それは身体の奥底に叩きつけられた汚濁がもたらす悦楽よりも、俺を満たしてくれる。
絶望し、泣き叫べばいい。
ほんの少しでいいから……俺のために苦しめばいい。
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02:暗いもの。を書こうと思ったのではなかったような。気もするのは気のせいかも。 070512改稿