ガユスが怒鳴っているのを聞いていると、楽しくなってくる。
罵声すらも好きなのだと気付いて苦笑する。
別に怒っている声だけが好きなのではなく、穏やかに話す声や笑い声の方がいい。ギギナ自身が上げさせるのならば、泣き声や悲鳴でもそそられるだろう。苦痛のそれではなく、という意味でなら。実際にギギナに向けられるのは不機嫌な声が多いので、それは少し不満だ。
奴の女に向ける声はともかく、例えば時たま会うだけの友人、ラルゴンキンやその事務所の連中に向ける声音の方がギギナにかける声より楽しげだったりすると、じりじりとガユスへの殺意が芽生えてくる。衝動に駆られるままにネレトーを振り下ろせば、紙一重ながらも慌てることなく身をかわされ、ちゃんとギギナの気配を窺っていたのだと確認。決して相棒を無視してはいなかったのだと再確認する。
それでとりあえず満足して矛先を収めると、彼は再びギギナに背を向けて話し始める。どうしてギギナが怒ったのかは、まるで理解していない様子で。
けれどその時には、彼よりも彼と会話していた相手の方がギギナに遠慮しているから、ギギナも黙って相棒の戯言に耳を傾けておく。とりあえず、彼はギギナのものなのだと、周囲が理解すればそれでいいのだ。素直ではない本人がどう思っていようと、決して認めないとしても、ギギナとガユス以外がわかっていればいい。
その声さえも、彼の全てはギギナのものなのだと。
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33:たとえガユスが気付かないとしても。070925改稿。