爪痕


 露出狂かと突っ込みたいほど、奴の服は布地が少ない。どれだけ自分のカラダに自信があるんだと呆れかけて、誇るに足る彫刻顔負けの理想のカタチを思い出して沈黙する。
 他者からの注目に慣れきった男の肩口からは、生々しい爪痕が覗いている。
 其れをつけたのが他ならぬ自分だというのが、認めがたいほど恥ずかしくて目を逸らしたくなる、が。
 自分で見ない振りをしても、奴が外を歩く度に世間様にそれを披露していたのでは、見ない振りにも意味がない。世の中の大半には、誰か度胸のある女がつけた傷だと思われてるだろうってのが救いだ。
 治癒咒式を使えと言いたいところだが、あの程度の傷で弾を使うのは、無駄遣いかとも思う。本人には痒いくらいの傷なんだろうし、意識してるとバレるのは御免こうむる。余計なからかいのネタを増やしたくはない。
 抱いた女に触れるのを許さないと聞くが、奴は俺がしがみつくのは拒まない。そりゃ仕事中を考えれば今更の話だ。むしろ向こうから触る率の方が多いくらいだし。
 ごく最近になって奴の肌で存在を主張し始めた傷は、みせびらかしているつもりなのではと噂になっているらしい。特別な相手が出来たんじゃないかと、囁く声を耳にした時は憤死するかと思った。あの男が爪痕すらも愛おしんでいるんじゃないかと、悶え死にそうな発想をしたのは誰だ。
 ひょっとしたら、見せ付けているのは事実かもしれないが。
 それは周囲へ恋人の存在を自慢したいのではなく、痕を見るたび目を逸らしてしまう俺への嫌がらせだ。
 あんな爪痕で、あいつを束縛できるものか。

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09:と、ガユスは思っているのですが。さて実際はどうなのか。(06/06/12)070514改稿 』

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