腐れ堕ちる甘い毒


 苛立ち混じりに、ペンの頭をがじがじと齧る。非常に不味い。食べるように出来ていないから当然だ。あまりよろしくない癖だが、手頃な位置に有り過ぎる。刃を受け止めるドラッケンには負けるが、立派に固い歯で噛み付いたペンが、ぼろぼろになる日は近い。
 けれど、本当にかぶりつきたいモノは他にある。
 視界の端でひょこひょこ揺れている銀の尻尾とか、無駄な物ばかり愛でる白い指先とか。
 事務所の経営状態が理解できない低脳ぶりを示して高額請求書を持ってこられた時は勿論だが、俺を翻弄してくる最中、目の前を過ぎるものについ噛み付きたくなるのは――仕方ないと思うのだ。だって本当に美味しそうなんだよ。
 いっそ本当に喰いちぎってやれば、欠片なりともあいつを俺のものに出来るだろうか。直後にあの世へ送られそうだが、奴の欠片と一緒に逝けるならそれも良いか、なんて。病状はかなり深刻だ。
 奴に『喰われる』度に思う。お前は俺を好き勝手に喰らって満足してるんだろうが、俺だって美味しく料理してヒトカケラも残さずお前を喰ってしまいたい。キレイで残酷なあのイキモノは、これまで料理してきたどの食材よりも腕のふるい甲斐があるだろう。あの大きな身体を全て胃袋に詰め込んで、消化しきらぬ内に死んでしまいたい。そうすれば奴の何もかも全て、無駄なところさえも、俺の中に取り込んでしまえるのに。
 疑いもなく俺の調理したものを平らげる男を確認する度に思う。腕力では敵わないけれど、こっそりと致死性の毒でも混ぜておけば、案外と簡単にヤれるんじゃないだろか。
 奴を毒殺してその肉を、血の一滴、髪の一筋まで貪って。奴の中に溜め込まれた毒で、俺も死んでしまいたい。あいつだけをたらふく詰め込んで、ぐっすりと気持ちよく眠ってしまえば、永遠に誰にも何にも奴を奪われずに済むのに。
 そしてやがて俺の死骸を見つけた者は、俺が独りで死んでいると思って、奴を内側から奪うことなく、ひとつの棺に葬るだろう。例え野路へ打ち捨てられたとしても、二度と離れることはない。朽ち果てて、世界に還る瞬間までも共に有り続けられるなら、そんな終わり方も悪くない。


 だけど、どうせ毒で死ぬのなら、俺自身の毒に甘く溺れさせて殺してやりたい。
 腐った俺の性根に絡め取られて、ぐずぐずに溶けてしまえ。
 そうして醜く腐敗して、甘く薫りだしたお前の全てをひとかけらも残さず食べてしまいたいんだ。

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10:ふと気付くと、ぼそぼそ暗い話が多くなってる~。ついでにファイルが重くなってきましたよ。(06/06/13)070514改稿

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