気がつくと、奴がこちらを見ている。
『開始三秒前』
何を考えているのか知らないが、最近ふと顔を上げるとギギナがいつもこちらを見ている。
その癖、俺と視線が合うと露骨に目を逸らしたり、逆に噛みつかれそうなギラギラした眼差しを寄こされたり。
ほんっとうに何を考えているのやら、己を振り返っても特に身に覚えは無し。俺は清廉潔白だ……とまでは言わないが、むしろ相棒を(つまり俺を)怒らせるのは奴の専売特許だ。すくなくとも日常の間に発生する行動では。
時に俺も仕事中に、洒落にならん事態で奴を怒らせてる気がするのは、まあ本気で怒ってたら見捨てられるだろうから多分いいとして。
ということで。
つまり何であいつに殺気だった視線を向けられるのかは不明だった。殺意、というのは少し違うかもしれない。本当にそうなら俺をヤる機会なんて幾らでも(恐ろしいことに)あるし、何ていうかもっと嫌な感じ。深く追求したくないと本能が囁く。勘に頼るなんて柄じゃないが、優秀な無意識が考えるなと告げる。そっと蓋しておくべき題材だと。俺には理解できない――したくない事柄だと。
多分まだ時間はある。
まだ、もう少し時間が必要だ。
……あのケダモノが動き出す前に、覚悟は決まるだろうか。