気になるだけ

 傍にいると苛立つけど、いなくなっても腹が立つ。


  『気になるだけ』


 事務所のソファで間抜け面を晒しながら、ガユスがぐっすりと眠っている。
 無防備に眠っている青年を見ていると、不思議な気分になってくる。
 強い意志を秘めた藍色が失われている時だけ、バレないようにそっと近付いて手を伸ばす。
 その腕に胸に顔に――唇に。気付かれぬように、そっと触れてみる。
 何が変わる訳でもなく、何も意味はないというのに、不愉快であり面映くもある。
 はっきりとわかるのは、自分を惑わすこの男が大嫌いだということ。
 恐らく、その点だけは相棒とも同意見だろう。


 そしてだからこそ、ギギナは今日も事務所までやってくる。
 見るだけで嫌な気分になる顔を、確かめるために。
 生きていると知るだけで苛つく男が、まだ死んでいないと確認するために。

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