ギギナがある日エリダナの道端で拾ったのは、神経質な野良猫を思わせるイキモノだった。
野生動物と呼ぶには気概も生命力も弱すぎるが、貴族の端くれとは思えぬ捻くれ具合は、家猫と呼ぶにも相応しくない。人に慣れず路地裏に転がっていたイキモノは、中途半端に強情な癖に軟弱で甘すぎた。人間とつかず離れず暮らしている野良猫と呼ぶくらいで丁度いい。
おずおずと事務所に入ってきたイキモノは、いつしか此処を居場所として気に入ったらしい。力の格差を悟ってなお噛み付く気概を持ち合わせた男は、適当に構ってやると嬉しそうに笑う。
おとなしく愛玩されるだけの小動物ではないが、甘やかして信頼させれば、柔らかな腹を撫でることも許して咽喉を鳴らし始める。妙に可愛らしいソレは、飼い慣らして己がモノとするのも悪くはないだろう。
力押しではなく、思考をもって作戦を組み立てる戦闘スタイルを見ていると、いずれこの男の指揮に従う瞬間があると予測出来て嫌な気分になる。今はともかく、いずれはとジオルグが考えているのが察せられて、貪欲に成長しようと足掻いているイキモノを複雑な気分で見つめてしまう。
何故だろうか。
この男は、従うよりも従わせたいという感情を生じさせる。
奴を屈服させるのは、さぞ気分が良いだろう。意地っ張りな男が、絶対的な力の差を身に思い知らされながら、涙を堪えて反抗するところを更なる圧倒的な力でねじ伏せてやるのだ。それはさぞかし心躍る狩りになるに違いない。戦闘の最中に上げている悲鳴は、そこいらの女の鳴き声よりも余程に征服欲を煽ってくれる。あの声を、自分の下に組み敷きながら聞いてみたい。この手で声が掠れるまで叫ばせてみたい。
欲情されていると気付かずに、無防備に背を向ける男を観察しながら微笑が浮かぶ。
今はまだ、彼は独りで生きていけるかもしれない。
それとも戦場で死ぬ覚悟を持ち続けられずに、此処から去っていこうとするのかもしれない。
だが――こうして出会った以上は逃がさない。逃がしてはやらない。
どうせぬくもりを知った野良猫は、二度と孤独に耐えられない。
冷えていくぬるま湯の中で、もがいている哀れなイキモノを、二度と手離しはしない。
ギギナのモノにすると決めた瞬間から、彼自身に選択する権利などないのだから。
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49:短文ばかり溜まっていき、ギギナの開き直り度も溜まっていく……(汗)
(07/03/28) 080408改稿。