あれは誰のものだろう。
ふと。美しいイキモノを眺めながら考える。
誰のモノでもなく、彼は彼自身のもの。それはわかっているけれど、あえて考えてしまうのは、欲しい答は別にあるから。
――あれを、俺のものにはできないだろうか。
気紛れに触れてくる指先、危険から遠ざける腕、囁かれる雑言。
どれも甘さは微塵も無く、それでも他の誰にも与えられることはなく。
ひょっとすると、自分だけ特別なのではないかという、幻想に酔ってしまいたくなる。
「……馬鹿馬鹿しい」
「何がだ?」
溜息混じりに呟くと、すぐ隣に横たわっていたものが面白そうに問いかけてくる。
奴にもサービス精神があるのか、コトの前後は物騒なやり取りに発展する確率が低い。大抵は動けぬほど酷使されているから助かる話だ。さすがに自分で行動不能にしておいて、切り殺すのは躊躇われるのか。無抵抗の相手を襲うのは主義に反するというだけか。
だから、遠慮なく尋ねてみる。
もしも不機嫌になったケダモノに殺されたとしても、構わぬというくらいの勢いで。
「とあるドラッケン族を殺したくて堪らないんだが、確実な方法を伝授してくれ」
「……とある軟弱な錬金術士の面倒をみている間は、死ぬ予定はないらしいぞ」
予想以上に微妙な返答は、うがってみたい甘さを秘めて聞こえる。言い回しに気をつけてもらわないと、軟弱でズルい錬金術士がうっかり誤解してしまいそうだ。
「――俺を愛しているならそう言ってくれ。そうじゃないと俺は」
「愛している、ガユス」
言い終えぬ内に、ギギナの声がした。
その意外な内容が頭に入らず、しばし反芻してようやく意味が腑に落ちる。
「…………馬鹿馬鹿しい」
ただの遊びだと早く言ってくれ。そうじゃないと、依存がますます進行して取り返しがつかなくなる。お前を俺のものにするために、何をしだすかわからないぞ。
「貴様はいったい、どうしろというのだ」
不満げなギギナの白々しい苛立ちに、虚しさだけが募った。
***********************************************************************
20:ガユス、まったくギギナを信用してません。ギギナ、どうしていいかわかりません。(06/06/27)070520改稿