「―――ガユス!」
怒号と共に頭上を旋回しながら飛び越えていったのは、あまりに見慣れた刀だった。
鋭い切れ味だけでなく、その重みでもって敵がなぎ払われていく。直後に一帯を支配した轟音と爆風が収まった時、辺りには深い沈黙が満ちていた。
軽く身を屈めて咒式を放った赤毛の青年は、何ひとつ動くものが見えなくなった世界を眺め、腰を伸ばしながら皮肉気に嘲笑する。
「恐怖のあまり滲んだ汗で武器が手からすっぽ抜けたか。それとも遂にネレトーは武器だというのも認識できなくなったか?」
「腰が抜けて這いつくばっていたくせに、命ばかりは助かったとわかった途端うわ言を叫びだすとは。とうとう惨殺されたくなったらしいな」
他愛ない軽口を交わした後で、同時に溜息が洩れたのは何故だろう。
いささか肝を冷やした事態を乗り越え、そんな失態を恥じながらも安堵し、複雑な感情を内包した視線が交わされる。窮地へ陥ったことを嘆かわしく思い、陥らせた自分を悔いてみる。
「……武器を手放すのは、さすがにどうかと思うぞ」
「貴様が軟弱なのが悪い」
僅かに毒素の弱まった言葉を投げあって、本日の反省会は終了。互いの内に残ったのは、微妙に異なる感慨だ。
敵に囲まれた己を情けなく思うが、自分を援護する男が焦りを滲ませている姿は何故か気分がいい。
愚かにも為す術なく倒されそうな男を足手まといだと思うが、彼を護りきれたことに酷く安堵する。
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45:久々、ひさびさ。どうも調子が出ません・・・(07/01/24)