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19:無題

 寝台に転がされて、思う様に嬲られて。俺は必死にシーツにすがりつき、嬌声を堪えていた。非常に一方的に我慢を強いられる中、熱いものが内側に叩きつけられ、ぐったりと脱力する。乱れきった呼吸を黙って整えていると、強い視線を感じた。
 見上げればギギナは、俺の上からどきもせず、苛立ちをあらわにしている。
 勝手に貪っておいてまだ不満があるとは、我が儘もいい加減にしろ。嫌ならしなけりゃいいだろうが。
 この行為には愛情が絡む訳じゃない。友情なんてもっての他で、それでも多少の好意はある、はずで。ならばせめて、互いに気持ちよくコトを進めるべきじゃないか。不快なのにわざわざする意味はないだろう?
「貴様、何故触らない」
「……はあ?」
 負けずに不機嫌な顔で睨み返せば、ギギナの複雑怪奇な表情が眼に入る。奴の視線が向かっていたのは、シーツに埋もれた俺の指先だった。
 行為の最中、俺は縋るものを求めてシーツをわし掴んでいた。それの何処がご不興を買ったんでしょうか。やりすぎで頭が腐った低脳の言葉は、全く意味不明だ。
 だってお前、触られるの嫌いなんだろう?
 それを知っているから、俺はいつだってギギナに触れぬように気をつけている。シーツや枕を握り締め、間違ってもお前に向けて手を伸ばさぬよう注意している。薄気味悪く馴れ合う身として、最低限の礼儀は守ってるつもりだ。繊細な心遣いと無縁なドラッケン族は、相手の厚意すら理解できないんですか。
「何が言いたい。まさかこんな行為の最中に、接触を理由に殺し合いを始めたいのか?」
「…………そんなことは言っていない」
 そうだろうな、さすがに。じゃあ何が言いたいんだ、語彙を増やして出直して来い。
 怪訝そうに小首を傾げてみれば、くっと小さく呻いた男が眼を逸らす。
「その仕草、どういうつもりだ」
「……お前が何を考えてるのか疑問だと、素直に表現したんだが?」
 本気で寝惚けてるとしか思えぬ反応。もはや呆れるしかなくて、溜息が洩れる。
 いい加減に退けとばかりに重い身体を押しやるが、何を考えたか低脳ドラッケンはむしろ更に体重をかけて圧し掛かってくる。
 潰す気かとビクつくが、そうではなくて。もっと不穏な気配というか、これはひょっとしなくてもサカってるといわないか。
「待て待て待てっもう充分ヤリまくっただろうが! てか、そんな嫌そうな顔で襲うな!!」
「うるさい。挑発したのは貴様だ」
「馬鹿野郎っ、誰がいつどこで挑発なん……んんっ!」
 ナニを考えてるんだ、この馬鹿はっ!
 延々と唇を貪られ続けて酸素が欠乏、意識が白く消えかけたところで、ようやく解放された。窒息死寸前でぐったりしていると、ケダモノは着々と手を動かして俺を煽り始める。
「……馬鹿はどちらだ」
「んだとっ!?」
 苦々しい呟きに、条件反射で突っ込む。潤んだ瞳で睨みつけてやった。お前に馬鹿と呼ばれる筋合いはないぞ。
「その眼が悪い。己の行動には自覚と責任を持て」
「なにを言っ……て、あ、あ―――……っ」
 反論むなしく、俺の身体の急所を知り尽くした指先にまさぐられて、呆気なく理性が失われていく。弄ばれ嬌声をあげながら、訳もわからず縋りつくものを求めてしまう。急速に奪われた現実感に恐怖さえ感じて、嫌がられるのを忘れて腕を伸ばす。
 振り払われても当然なのに、差し出した腕は意外にもギギナに受け入れられた。力一杯しがみつくと、応えるように力強い腕が俺を抱きしめる。暖かなぬくもりを感じる充足感に、快感が更に募った。抱き締められて密着する面積が増すというそれだけの事で、これまでに無いほどの悦楽を覚える。
 うっかりとギギナの背中に爪痕を作ってしまったのに気付いたのは、コトが終わって正気に戻った後だ。恋人にならともかくセフレがつけた刻印なんて鬱陶しいだろうが、半ばはギギナの自業自得だ。謝る気にはなれない。嫌なら自分で治せ、仕掛けたのはお前の方だからな!
 ただ、この行為にも一応は、互いに最低限の馴れ合う情は絡んでいる、はずだから。わざわざギギナに嫌がらせをしたくはない。次の機会は、ギギナに触れるなんて不覚を取らぬように気をつけようと、心に誓った。

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19:ギギナに触らないよう気を使っている(つもりの)ガユスと、もっと欲しいと手を伸ばしてこないガユスが不満なギギナ。なんでこう……頭の悪い話ばかりなのか……(06/06/26)070520改稿

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